1994年 クリスマス島観測隊


    クリスマス島余話(前編)
坂 翁介

 クリスマス島はキリバス共和国の東の果てにある小さな島だ。ここに入るには2つの方法しかない。一つはナウルからタラワを経由して行くか、あるいはホノルルから南下するかだ。ここから東にはもう島はない。次は南米大陸があるだけだ。磁気赤道観測網の経度上の空白を最小限にするためには、どうしてもここに磁力計を設置しなければいけなかった。クリスマス島はホノルルから3時間の飛行で着くが、ハワイの税関吏でも自分たちのすぐ南(3時間のFlightだが)に飛行機が発着する島があることを知らなかった。
 さて、クリスマス島では形だけの税関を通って、迎えの人の車に乗る。道路が意外に立派なのに驚く。至る所に赤錆びたドラム缶や車の残骸がある。来て初めて、ここはイギリスが最初の原爆実験に使った島だと知った。島に起伏はない。海面が5メートルも上がれば、この島は完全に無くなるように感じたほど、まったいらな所だ。ここには、ブライデンという親切なイギリス人がいる。先ほど空港まで迎えにきてくれた御仁だ。彼はヨット乗りだったらしく、クリスマス島に漂着して、現地の見目麗しい女性(本当に魅力的な人だった)と結婚して居着いてしまった。立派なガレージを持っていて、「どうしたんだ」と聞いたら、「原爆の組み立て工場を引っぱって来たのだ」と教えてくれた。ブライデン氏が「おまえ、フィッシングやるのか?ダイビングはどうか?」と聞くので「いやー、それがのー」と答えると、本人も「わしゃーのー、仕事が趣味でのー」と言う。それじゃー、ヨットはなんだったの?と内心思った。よっぽど懲りたのだろう、漂流して。渡辺君と二人でピックアップを借りて原爆実験場の跡を見に行ってみた。これがとんだ目にあう事の始まりとは誰が知っていたろう!事の顛末は後編で。



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